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2011年9月21日

動物行動学的「子育て」の捉え方の入門書

イヴの乳―動物行動学から見た子育ての進化と変遷
小原 嘉明
東京書籍
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誠実な本だ。「子育て」を動物行動学の視点でとらえるとどうなるのか、さまざまな動物(魚類、昆虫、鳥類、哺乳類など)の実際の研究例を挙げて丁寧に説明している。類書には動物行動学(進化生物学)の理論を乱暴に現代社会にあてはめ、科学の名を借りて自分の子育て観を押し付けるような著作もあるが、本書はそのような態度とは一線を画している。子育てに関連する動物行動学の理論的枠組みを紹介し、豊富な実例でそれらをわかりやすく示している。

生物学者の目には、本書の内容は特に目新しくは映らない。内容的にはきわめてオーソドックスといってよい。

特筆すべきはその文章、文体だ。平易な言葉で実にわかりやすく書いてある。また、押し付けがましさがない。穏やかな口調で丁寧に語りかけられているような感覚を得られる。

進化生物学者が人間について語る本として、これは異例のことではないかと思う。動物学者や進化学者は人間について語るとき、えてして「文系の人々は人間は特別だとかいいますけど、人間も生物の一員であり進化の産物であることは科学的、客観的な事実なんですよっっっ!」みたいなことを口走ってしまうのだけれど、本書にはそういう攻撃的な感じは皆無である。

だから、本書は「子育ての本」というより楽しい動物読み物としても十分価値がある。むしろ、本書から現代社会における子育ての問題について直接的な答えを得ようとする人にとっては物足りないかもしれない。終わりのほうで現代社会の子育てをめぐる問題について多少論じているが、類書のようにそれを強引に動物行動学に結びつけて解釈したり処方箋を示したりはしていない。だがそれも著者の誠実さのあらわれだろうと私は思う。

最近、霊長類学から子育てについて何か語ろうという野心を抱いた私にとっては大変参考になる本だ。同時に、うちの大学の学生に対して子育ての生物学的側面を教えるのに格好の参考書になる。「文系」の保育系、教育系の方々にはぜひ本書をお読みいただきたい。