2010年2月23日

ようやくキャンプへ


リーブルビルに到着して一週間、ようやく調査地へ移動できるめどが立った。最近では、これほど時間がかかったのは久しぶりだ。

キャンプ入りが遅れた原因は、調査許可の遅れだ。JICAのプロジェクトが始まって以降、いろんなことの規模が大きくなったため、日本人研究者とガボン側の意思疎通がなかなかうまくゆかなくなり、先方にさまざまな不満がたまっていたようだ。

結局、いつものように、じっくり議論することで相互理解にいたることができた。けれど、プロジェクト運用上でカウンターパートと齟齬が生じた場合、それを解決するのは専門家の役割なのかなぁ、とか、僕より先に入っている人たちも、もうちょっと先方とのコミュニケーションを密にしてくれないかなぁ、とか、愚痴を言いたくなったりして。

ともあれ、ようやく調査だ。運営管理はあくまで二次的な仕事。頭を切替えてゆこう。
同行している京大のNくん、とても優秀で、刺激になる。森を歩くのが楽しみだ。

2009年12月13日

Diboty


ムカラバの類人猿保護のため、研究者仲間と一緒にほそぼそとグッズ製作と販売などをしてきた。今年のSAGAシンポジウムで物販をした時に、もうちょっと積極的に活動していこうという話になり、では活動するグループの名前をつけようということになった。そこで決めたのが

「Diboty (ディボティ)」

だ。

Dibotyとは、ムカラバ周辺に住む農耕民プヌの言葉で「やさしい」という意味。主に「ありがとう」という意味でも使われる。

われわれの暮らしを支える、アフリカの熱帯林の生態系(ヒトを含めた)の「やさしさ」に対して「ありがとう」という気持ちを込めて名づけた、ということにしておく。ムカラバにゆかりの言葉で、響きがよく、意味ありげで、活動するわれわれも違和感なく使える言葉にしたというのが本当のところだ。

当面は、SAGAでの物販を中心に、日本で募金を募りつつ、現地で村人たちが結成したNPOの活動の支援をしてゆく予定。

現地でこれまでやってきたのは、村人の作ったみやげものの買い上げと(SAGAで売れた!)、GRASP-Japanの寄付金による医薬品と学用品の寄付だ。

日本でも、もっと啓発活動をしてゆきたいと思うが、なかなか人手が足りない。中心メンバーのほとんどは現地に長逗留するか、いったりきたりだ。グッズや広報チラシの製作、ホームページの作成などやりたいのだが、ほんとに時間がない。

というわけで、類人猿保護に関心のある人で、活動に興味のある人がいたら、ご協力をお願いしたいです。ヤムイモ公式サイトの「保護」のページにもう少し詳しい情報と連絡先を掲載しているので、どうぞご覧ください。

2009年11月29日

[読書] 日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか (内山節著 講談社現代新書)

アフリカでフィールドワークをしていると、しばしば不思議なできごとに遭遇する。呪術や超常現象は、ありふれているとまでは言わないが、調査をしている我々の日常の身近に「フツーに」存在している。今年の2月にも、キャンプに幽霊が出て、たいそう困ったそうだ。いまや僕は、それが科学的か否か、あるいは事実か妄想か、ということに拘泥する暇はなく、それがそのように存在していることを受け入れている。

なんてことを知人や学生に話すとびっくりされる。だが、日本人も、ちょっと前にはそんなふうに、キツネにばかされる日常を生きていたのだ。それが、1965年ごろを境に、急激に日本人がキツネにだまされることがなくなってしまったのだよ。それはなぜだろう? という疑問をスタートポイントに、1965年以前の日本人の自然観を歴史哲学の立場から論じたのが「日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか (講談社現代新書)」だ。

読みはじめに期待していたのは、「なぜ1965年を境にしているのか」ということへの答えだった。だが、そのことへの明確な答えは記されていない。1965年ごろに大きく変容した日本人と自然の関係、社会構造などなどが書かれているのみである。

むしろ本書で論じられているのは、「なぜ昔の人はキツネにだまされていたのか」あるいは「キツネにだまされていた日本人はどういう世界を生きていたのか」ということだ。

こんな問いに対し、深く考えずにいると、きっとこんな答えになるだろう。昔の人は、自然と身近に接し、自然と調和しながら生きていたからだと。そして、今の人がキツネにばかされないのは、そういう自然との関係を断ってしまったからだろうと。

しかし、著者の論考は意外な方向に進む。もちろん、昔の人は、今よりもずっと「自然と身近にかかわりながら」生きていた。だが、そのかかわりあいは「調和」ではない。いや、客観的に見れば調和なのかもしれないが、生きていた人々の身体や生命にとっては調和ではなかった。

かれらは普段に自然から何かを得たり、自然と対立してきた。それは、現代的視点から見れば自然の搾取でも自然破壊でもなかった。むしろ自然の恵みを享受していたのだといってよい。けれど、その時を生きていた人々はどう考えていたのか。

著者は、自然からの搾取と自然の恵みの享受とのあいだに明確な線引きをするのは本質的な困難だという。両者の違いは、前者は「欲」がからんだ行為であり、後者は純粋な生命的な行為であるという点であり、客観的に測定できる(と期待される)「自然へのインパクトの強さ」ではない。客観的に線引きできない以上、人は「それはわが身の「欲」のなせることなのか」に対し、明快に否定することができない。そこに悩みや罪の意識が生じる。つましく暮らしているつもりでも、ひょっとしたら悪をはたらいていしまっているかもしれない。自然の側からのメッセージによく耳を傾けておかないと、それに気づかないかもしれない。キツネにばかされるというのは、自然の側からのメッセージのひとつのありかたと考えられる。

しかし、昔の人は「自然の恵みを享受する」ことすら、実は悪であると考えていたのではないかと著者は言う。人間は、普通に村での暮しをつつましく送っていても、本質的に悪なのだ。普通の暮しを続けていると人々はかならずケガレてしまう。それはカタギの世界を生きるわれわれの居因業としか言いようがない。つまり、昔の人は、生きていることは悪であるととらえていたということだ。

僕は、自然保護というのは、人間だけの幸福を追求するのでも、(一部の過激保護運動家がいうように)人間存在を悪とみなして糾弾するものでもなく、両者が共有できる幸福を追求するものだと信じていた。そして、人と自然がともに"幸福"であるようなありかたはきっと存在すると信じていたし、またそう信じることこそ重要なのだと考えていた。

だが本書を読んで、その考えが揺らいだ。自然保護というのは、ハッピーな未来を構築するための手段として成立させることは不可能で、自然への贖罪行為としてしかありえないのかもしれない。どうだろうか。もう少し考えてみよう。


2009年11月12日

SAGA12@北九州

あさって11月14日(土)〜15日(日)、第12回サガ・シンポジウム(SAGA12)が北九州大学および到津の森公園で開催される。

【1日目】 11月14日(土) 10:30-19:00 於 北九州市立大学 北方キャンパス 本館大講堂(A-101)
10:30-10:35 挨拶 竹川大介 (北九州市立大学)

 『特別講演会』 司会:伊谷原一( 京都大学野生動物研究センター)
10:40-11:20 キャロル・ソダーロ(ブルックフィールド動物園) 「動物園とオランウータンの保全」 ※英語発表。日本語スライド同時表示予定。
11:20-12:00 松沢哲郎( 京都大学霊長類研究所)「チンパンジーの心、人間の心」
12:00-13:00 昼食 / SAGA世話人会(本館2階 B-202)
13:00-13:40 古市剛史( 京都大学霊長類研究所)「ボノボ・メスたちの平和力」

13:40-14:10 『大型類人猿ビデオ上映』 ( 大阪芸術大学制作)

14:10-14:20 休憩 14:20-15:50

 『意見交換会:日本のチンパンジーの将来を考える』(本館2階 B-202) 司会:鵜殿俊史(チンパンジー・サンクチュアリ・宇土)

 『NPO/NGOブース展示』(本館1階 ロビー)

 『森人類カフェ』 (中庭スタードーム)

16:00-17:30 ポスターセッション(地下1階 学生ホール)

17:30-19:00 懇親会(地下1階 大学生協)

【2日目】 11月15日(日) 9:30-16:00 於 到津の森公園 管理棟3階 ほか
9:30-9:40 挨拶 岩野俊郎 (到津の森公園園長)

9:40-11:00 (管理棟3階) 『エンリッチメント大賞2009受賞者講演』 司会:落合知美(市民ZOOネットワーク)
旭川市旭山動物園「あざらし館のプール凍らせ作戦」
京都市動物園「チンパンジー舎」
長崎バイオパーク「水辺で暮らすカピバラのエンリッチメント」
その他、第1次審査を通過した全国の動物園のさまざまな取り組みについて紹介。

11:00-12:00 (管理棟3階) 『国際ゴリラ年記念講演』 山極寿一( 京都大学大学院) 「ゴリラの生き方に人間の由来をさぐる」

12:00-13:00 昼食 / SAGA世話人会(管理棟3階)

13:00-14:00 (森の音楽堂 雨天:管理棟3階) 『特別講演:変わる地方の動物園』 出口智久( 宮崎市フェニックス自然動物園園長) 本田公三( 熊本市動植物園副園長)

14:00-15:40 (森の音楽堂 雨天:管理棟3階) 『パネルディスカッション』
「 これからの動物園−動物たちに未来はあるか− 」
コーディネーター:岩野俊郎(到津の森公園 園長)
パネリスト:出口智久( 宮崎フェニックス自然動物園園長) 本田公三( 熊本市動植物園 副園長)中道正之( 大阪大学大学院人間科学研究科 教授)

16:00 閉会

アクセス等、詳細はサガのページにて。

ムカラバ関連グッズの販売します。

2009年10月23日

調査地のGISデータベース構築に挑戦

9月から開始したJICA/JSTの地球規模課題対応国際科学技術協力事業「野生生物と人間の共生を通じた熱帯林の生物多様性保全」では、主要な成果のひとつとして調査地であるムカラバ国立公園の生態系マップの作成というものがある。年明けから広域で動植物相の調査を開始する予定だが、そのデータも、地理情報としっかり関連づけてゆかねばならない。

そのために、センサスの計画デザインと、GISを含む生態データのデータベースの構築が、僕の年内の仕事になる。

今回、GISも含め、データベースはすべてオープンソースのソフトウェアを使用する方針だ。なぜなら、いずれそれはガボンのIRETに移管するからだ。高価なソフトウェアでデータベースを組んでしまっても、のちのち使えない。

今考えているのは、GRASS GIS + SQLite + R + MapServer という組み合わせだ。OSはUbuntuのサーバ版にしようかデスクトップ版にしようか思案中。とりあえず、サーバにするマシンの選定をしつつ、自分のノートPC上にテストシステムを構築してみる。随時経過をアップしてゆきたい。