2009年11月24日

追悼: 日高敏隆さん

今朝のニュース。

動物行動学の第一人者、日高敏隆さん死去...79歳(Yomiuri Online)

日本に動物行動学、そして社会生物学を根づかせた功労者だ。学部の頃に授業をうけたが、著書ほどにはおもしろくなかったのを記憶している。だが、それは著書が抜群におもしろかったということだ。

ドーキンスの「利己的な遺伝子」を翻訳したり、社会生物学の紹介者としての功績がたたえられることが多いが、僕にとっては、生物学における人間中心主義を徹底して解体しようとした点にもっとも共感する。

また、社会生物学者のなかには、現象をほとんど見ず、借り物の理論を使って生物界を(表層的な)合理主義で説明するだけのおもしろくない人もたくさんいるのだが、日高さんの、さすが元昆虫少年というか、ナチュラリストというか、なによりもまず動物のさまざまな行動の「おもしろさ」を大事にする雰囲気も好きだ。

もっとも感銘をうけた著作は、「動物という文化」だ。これは、動物の形態・生態・行動の多様性を「文化」になぞらえて説明したものである。文化に下等も高等もないように、動物の生きかた、ありようにも下等も高等もないのだよ、という強い思いが感じられると同時に、ナチュラリストでもなんでもない僕にとっては、「なんだかわけのわからない動物たち」でしかないたくさんの動物たちの生き方が、魅力たっぷりに語られている。生物多様性に興味のある人々には、ぜひ読んでほしい。

ご冥福をお祈りします。合掌。


2009年11月23日

事業仕分けについて思うこと

事業仕分け。最悪だ。

民主党政権になったら、予算が効率的に使われるような改革をしてくれるのだと思っていたのだが。つまり、それぞれの事業について、実際の事業と関係のない、役人や元役人のじいさんたちの懐に入るお金を削ってくれるのだと思っていた。

だから、科研費などの「実費」は増える、とまではゆかなくても、使い方の変な制限がなくなったり、事務のための事務のようなものがなくなって、使いやすくなるのだと思っていた。

それが何だ。天下り役人の数が多い独法が管轄する事業は、事業そのものをなくすのだという。事業をなくすのではなく、上から降ってくるあいだに消えてゆく無駄な出費の部分をなくしてくれよ、と言いたい。

そもそも、縮小もせず存続する事業は効率的に運用されているわけ? 報道によると、仕分けによって減らせた部分って、まだ1兆円程度のようだが、残りの94兆円は、無駄なく効率的に運営されていると、民主党の人々はお考えなのだろうか?

そして、民主党議員の発言を聞いているかぎり、「すぐに金になる」事業以外はつぶす(そして、金になるのなら、無駄があっても構わない)という方針のようだ。乱暴すぎる。

民主党は、基礎科学の重要性をどう考えているのだろうか? 少なくとも蓮舫さんは、いらないと考えているのだろうな、というのが態度からわかるが、党としての方針はどうなのだろう。まずは基本方針を明確にしてほしい。そうすれば、次の投票行動の参考になるから。

2009年11月19日

調査地のGISデータベース構築に挑戦(7) SRTMデータをGRASSデータベースにとりこむ

前回のETM+データに続き、今回は第4回でダウンロードしたSRTMのデータをGRASSデータベースにとりこむ。

第4回では、SRTMデータを"BIL"形式と"DTED"形式でダウンロードした。GRASS GISへの読みこみは、後者のほうがお手軽なので後者を用いる。DTEDデータは、拡張子が".dt1"のひとつのファイルである。ムカラバを含むのは"s03.dt1"である。

GRASS ロケーションの作成

前回同様、wxPythonを使ったGUIを用いてGRASSを起動する。前回"-wx"オプションつきで起動したので、~/.grass6rcにデフォルトでwxPythonを用いるよう設定されて いるはずだ。

> grass

あとの手順は、基本的に前回のETM+のとき同様だが、今回はデータファイルがひとつだけなので、ロケーションのデフォルト範囲を手動設定せず、画像ファイルのものをそのまま用いる。詳しい手順は前回を参照のこと。

衛星画像のインポート

これも手順は前回と同じだが、今回はファイルが一つだけなので、ディレクトリを選ぶのではなく、直接ファイルを指定する。GRASS内での地図名は「SRTM」とした

おまけ: 等高線データの作成

GUIメニューの「Raster」を眺めていたら、サブメニューに「Generate contour lines」という項目があった。せっかく標高データを読みこんだのだから、等高線を作ってみよう。

「Generate contour lines」をクリックするとコマンド実行画面になる。

「Required」タブ

  • ソースとなる地図、この場合はSRTM@PERMANENTを選択する。
  • 作成する等高線データ地図の名前を決める。ここでは、contourとした。

「Optional」タブ

  • 「Maximum contour level」に、標高の上限の値を入力する。ムカラバ国立公園内の最高峰は900m程度なので、ここでは1,000mとする。
  • 「Minimum contour level」に、標高の下限を入力する。ムカラバの最低レベルは50m程度なので、ここでは0mとする。
  • 「Increment between contour lines」に、等高線の間隔を入力する。ここでは20mにしてみる。

そして「Run」。あっけなく等高線を描くことができた。

2009年11月12日

調査地のGISデータベース構築に挑戦(6) ETM+画像データをGRASSデータベースにとりこむ


いよいよ、第3回でダウンロードしたランドサット画像をGRASSにとりこむ。

下準備

ダウンロードファイル、elp185r062_7t20000806.tar.gzを解凍して中身を見る。

> tar zxvf elp185r062_7t20000806.tar.gz
> cd elp185r062_7t20000806
> ls
p185r062_7k20000806_z32_nn61.tif  p185r062_7t20000806_z32_nn20.tif
p185r062_7k20000806_z32_nn62.tif  p185r062_7t20000806_z32_nn30.tif
p185r062_7p20000806_z32_nn80.tif  p185r062_7t20000806_z32_nn40.tif
p185r062_7t20000806.met          p185r062_7t20000806_z32_nn50.tif
p185r062_7t20000806_z32_nn10.tif  p185r062_7t20000806_z32_nn70.tif

雰囲気でだいたいわかるが、拡張子".tif"のついているファイルが衛星画像で、拡張子の直前の番号がバンド名。拡張子が".met"のものはテキストファイルで、この衛星画像のメタ情報が記されている。

このメタ情報をもとにGRASSのロケーションを作成する。

GRASSロケーション作成

GRASSを起動する。ここでは、wxPythonを使ったGUIを用いる。

> grass -wx # -wx オプションでwxPython GUIを指定。

  • 起動画面右の「Location wizard」をクリック
  • 次画面でデータディレクトリとロケーション名を入力
  • 次画面で「Use coordinate system of selected georeferenced file」をチェックする。

ダウンロードしたETM+画像はGeoTIFF形式で、画像の測地系、楕円体、投影法の情報がメタファイルに記されている。上記を選択することで、GRASSが選択されたTIFFファイルの地理情報を読みとってくれるのだ。ちなみにダウンロードされたファイルは、WGS84測地系(WGS84楕円体)にもとづき、UTM(ゾーン32、赤道のY値は0)に投影されたものである。

  • 次画面で、どのバンドでもよいからtifファイルを選択。
  • 次画面で「Finish」をクリックすると、「Do you want to set the default region extents and resolution now?」と表示されるので、「はい」を選択する。

ここで、ロケーションのデフォルト範囲と地上解像度を設定する。.metファイルの以下の行を参考に、東西南北の座標値を入力する。

SCENE_UL_CORNER_MAPX = 596362.500   # 画像の左上のX座標値
SCENE_UL_CORNER_MAPY = -216514.500  # 同、Y座標値
SCENE_UR_CORNER_MAPX = 778164.000   # 画像の右上のX座標値
SCENE_UR_CORNER_MAPY = -243019.500  # 同、Y座標値
SCENE_LL_CORNER_MAPX = 557631.000   # 画像の左下のX座標値
SCENE_LL_CORNER_MAPY = -396406.500  # 同、Y座標値
SCENE_LR_CORNER_MAPX = 739489.500   # 画像の右下のX座標値
SCENE_LR_CORNER_MAPY = -422940.000  # 同、Y座標値

地上解像度は、もっとも高解像度のバンド8、すなわちパンクロ画像にあわせる。.metファイルを見ると、

GRID_CELL_SIZE_PAN = 14.250   # パンクロ画像の地上解像度
GRID_CELL_SIZE_THM = 57.000   # 赤外線画像の地上解像度
GRID_CELL_SIZE_REF = 28.500   # 可視光画像の地上解像度

とあり、14.250mとわかる。x,yとも同じ値を記入する。

これでロケーションが作成され、自動的に「PARMANENT」というマップセットがその中に作られる。

GUIで今作成したロケーションのマップセットPARMANENTを選択して左下の「Start GRASS」をクリックすると、GRASSが起動する。

GRASSへの衛星画像のインポート

GRASSの「GIS Layer Manager」画面で、File → import raster map → Multiple raster data import using GDAL を選択する。
「Choose directory」で、ETM+画像を格納したディレクトリを指定する。Select file extensio を "tif"として、「import」ボタンをクリックすると、ディレクトリ内のすべてのtif画像をGRASS GISにインポートしてくれる。

インポートされたデータの名前は、それぞれのファイル名と同じになっている。

これは、コマンドラインでの操作としては、それぞれのファイルに対し

r.in gdal -o input="filename" output="filename"

を行なったのと同じことになる。

必要に応じて、インポートした地図データの名前は変更できる。

次回はSRTM画像をGRASSにとりこみ、SRTMの標高データをもとに等高線地図を作成する。

2009年11月 8日

GRASS本の邦訳が出版予定?

WRZELSさんのブログによると、近々「OPEN SOURCE GIS: A GRASS APPROACH」の邦訳が出版されるそうだ。しかも値段が半額(?)らしい。

うれしいニュース。ソフトウェアマニュアル系の本って、どうしても英語だと頭に残らないので、待ちどおしい。いい人が翻訳してくれていることを祈りつつ。

2009年11月 7日

調査地のGISデータベース構築に挑戦(5) GRASSの準備

前回、次はランドサットデータをGRASSにとりこむと記したが、その前にGRASS GISについておさらいし、データベース構築の方針を決めておく。

GRASS GISとは

GRASS GISとは、オープンソースのGISソフトウェアで、主としてラスター解析を得意とするが、次第にベクター解析も充実してきている。LinuxおよびMacOSXで動作し、WindowsではCygwin環境でのみ使えていたが、最近Windows版もリリースされた。

ガボンの研究機関にGISを導入する際、有償ソフトウェアだと、その後のサポートやメンテナンス、あるいは拡張にお金がかかる可能性があるため、オープンソースソフトウェアを使うことは有意義だ。

GRASS GISの詳細情報は下記のウェブサイトが参考になる。

参考書はこちら。わかりやすい英語で記してある。



GRASS データベース構築の方針

GRASS GISでは、ひとつのデータベースの中に複数の「ロケーション(location)」をもつことができる。そして、おのおののロケーションには一つまたは複数の「地図セット (mapset)」を置くことができる。

それぞれのロケーションは、固有の座標系 (coordinate system)と投影法 (projection)、および範囲 (region) によって定義づけられる。つまり、同じロケーションの中にある地図は、座標系と投影法が共通で、ロケーションの範囲内の情報しか得られない。

ひとつのロケーションで用いる地図は、同じテーマや作成者、利用者といったカテゴリによって区分することができる。その区分が地図セットだ。

さて、現在手持ちのデータセットは、第2回に記した4種類、すなわちGPSデータ、Landsat ETM+、SRTM標高データ、そしてCarpe作成の植生図等だ。今後、QuickBirdの画像や、手持ちの空中写真も加えてゆきたい。

データベース構築にあたっては、まずデータセット毎に、データソースの座標系や投影法にあわせた、個別のロケーションを作成することにする。そして、作業用のロケーションを別途作成し、最終的にすべてのデータソースをそこに統合する形をとることにする。

次回こそ、衛星データをGRASSにとりこむ。

2009年11月 1日

調査地のGISデータベース構築に挑戦(4) SRTMデータの入手

前回ランドサット画像を入手したのにひきつづき、今回は標高データとして、SRTMデータを入手する。
SRTMとはスペースシャトルが軌道上から合成開口レーダーで取得した,ほぼ全地球の3Dデータデータです。

 以前からversion1のデータが入手可能でしたが,現在はさらにデータ処理を行い,扱いやすくしたversion2が入手可能です。(ちずろぐ別館より抜粋)

USGSの解説によると、2000年2月にスペースシャトル・エンデバー号が全世界の三次元撮影を行なったそうだ。アメリカ合衆国の地形は解像度約30m、それ以外の地域だと約90mの画像が手にはいる。


ダウンロードはランドサット画像と同じく、USGSのサイトからである。EarthExplorerで Elevation→SRTM にチェックを入れ、地図で場所を選んで検索する。検索の手順は、前回のエントリに詳しく書いた。

ムカラバ周辺では、2002年に作成された画像が手にはいった。 "BILフォーマット" と "DTEDフォーマット"のファイルがダウンロードできる。フォーマットの形式についてはこれから勉強。とりあえず両方ダウンロードした。

次回は、前回ダウンロードしたランドサット画像を開いて、GRASS GISにとりこむ作業を行なう。

調査地のGISデータベース構築に挑戦(3) ランドサット画像の入手

ランドサット ETM+データについて

Landsat
はアメリカ NASAが運用している衛星で、およそ16日周期で、地球上のあらゆる場所を撮影している。現在運用されているのは7号機。ETM+というセンサーを搭載し、可視から熱赤外まで8バンドの観測波長を持っている。

運用開始は1999年。2003年の夏に撮影装置が壊れ、それ以降の画像はSLC-Offモード(詳細は)で撮影されている。SLC-Offモードで撮影された画像には縞々の線が入ってしまう。詳細はhttp://eros.usgs.gov/#/Find_Data/Products_and_Data_Available/ETMに説明がある。

8つのバンドがカバーする波長は以下のとおり。

  • バンド 1: 0.45-0.52 マイクロメートル(おおよそ青)
  • バンド 2: 0.52-0.60 (おおよそ緑)
  • バンド 3: 0.63-0.69 (おおよそ赤)
  • バンド 4: 0.77-0.90 (近赤外線)
  • バンド 5: 1.55-1.75 (中間赤外線)
  • バンド 6: 10.40-12.50 (熱赤外線)
  • バンド 7: 2.09-2.35 (中間赤外線)
  • バンド 8: .52-.90 (パンクロマティック)
画像の解像度は、バンド1〜5、7が約30m、バンド6が約60m、バンド8が約15mである。

画像のNASA(やその代理店)から購入するととても高いらしいが、撮影時期を選ばなければ、USGSのサイトから、
を無償でダウンロードすることができる。

ダウンロードの方法

画像検索はUSGSのEarthExplorerを用いる。手順は以下のとおり。

  1. EEのページを開く。
  2. 左側にある "1. Select your dataset" の "Landsat Archive" にある "L7 SLC-off (2003-present)"、"L7 SLC-on (1999-2003)"と、"Landsat Legacy"にある "ETM+ (1999-2003)"
  3. にチェックをいれる。
  4. 真ん中の "2. Enter your Search Criteria" で、入手したい画像の場所や撮影時期を選択する。
  5. 右の "3. Search" をクリックすると、検索がはじまる。
  6. 検索結果の画面がでたら、Data Setをクリックすると、結果の詳細情報が表示される。一番左のプレビュー画像で、目的の場所が雲で覆われていないかを確認できる。撮影日時等もチェックできる。
  7. ほしい画像が決まったら、中央のdownloadリンクをクリックする。

ee.jpg
(EEの画像検索画面:クリックで拡大)

いくつかのファイルのダウンロードにはユーザ登録(無料)が必要だ。また、直接ダウンロードではなく、オンデマンドで注文(価格は0円)してダウンロードする必要がある場合もある。

ムカラバの調査地周辺が写っていて、雲がかかっていない最新の画像は2000年8月6日撮影のものだった。ダウンロードしたファイルはelp185r062_7t20000806.tar.gzという圧縮ファイル。この中身については後日。

次回はデジタル標高データをダウンロードする。

参考ページ・書籍