2008年7月29日

サル学者のフィールドワーク

前期の授業がおわり、レポートの採点などをしつつ、来週からのガボン現地調査の準備をしている。

僕のゼミの卒業研究の課題は、どんなテーマでもいいから、自分でフィールドワークをして何かを発見するというものだ。子どもや福祉を学ぶ学生にサルの研究をさせてもしょうがないので、卒業後の彼らに役にたつことで、自分が教えられることは何だろうと考えたときに、浮かんだのが「フィールドワーク」だった。

といって、僕がやってきたのはサル調査のフィールドワークだ。人や社会の調査のフィールドワークの手法やノウハウはわからない。そこで、学生に読ませることも考えて、フィールドワークに関する本を探してみると、最近かなりたくさん「フィールドワーク本」が出版されていることに気付いた。

何冊か読んでみて思うことはふたつ。やっぱりフィールドワークはいいなぁ、ということと、フィールドワークって、フィールドワーカーの数だけあるのだな、ということだ。業種と人によって、まったく違う世界が広がっている。

だが、そのフィールドワークの多様性のせいで、それぞれのフィールドワーク本に、いまひとつ満足できない点を感じた。多くの本は共著の形で、何人かの執筆者がそれぞれ自分のフィールドワーク体験をもとにそれぞれのフィールドワーク論を展開している。それらひとつひとつはおもしろいのだけれど、全体として「フィールドワークに通底する何か」のようなものが見えてこないのだ。

個人的なあこがれや、大学の卒論、修士の研究などで、これからフィールドワークをしようという人は、こういう「フィールドワーク本」から何を得られるかと考えると、僭越ながら、僕が最近まとめ読みした数冊の中には学生に勧めたいと思う本は多くない。

もし、一冊オススメをあげるなら「フィールドワークは楽しい」(岩波ジュニア新書)だ。他のフィールドワーク本は、一体誰のために書いているのかがはっきりしないものが多いが、これは、ジュニア新書ということで、中高生、つまり、フィールドワーカーではない若い世代を対象にしているため、表現もかみくだいてあるし、専門性を強調せず、フィールドで自分がどういう苦労をし、どういう喜びを得たか、ということが伝わりやすくなっている。

さて、あまりオススメはないと言いつつ、実のところ、僕はとても楽しくこれらの本を読んだ。フィールドワーカーは、調査結果だけではなく、自分のフィールドワークそのものを語りたいのだな。そして、かれらが語りたいことというのは、「実感」なのだな。残念ながらいくつかの本や章では、その実感はうまく伝わっていないけれど、そこに「実感があった」ということは、やはりフィールドワークをなりわいとしている僕には伝わってきた。そして、僕も自分がフィールドで感じている実感を人に伝えたくなった。

考えてみると、サル研究者によるフィールドワークの本は、昔は多かったが、今は少ない。でも、サル屋のフィールドワークは、ヒト屋のフィールドワークとはずいぶん違う。その一方、対象種や調査地の地域に違いはあれど、サル屋のフィールドワークに共通の特長や魅力があるように思える。また、昔のサル屋のフィールドワークと、今の、僕と同世代のサル屋のフィールドワークも、ずいぶん違うのではないか。そう考えると、仲間をあつめてフィールドワークの研究会でもやってみたくなる。

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