2012年6月30日

アウェイの霊長類学

日本生態学会誌 62(1)の特集は「アウェイの生態学」だった。この特集は第58回日本生態学会で開催されたシンポジウムをもとに構成されたものだ。これまで、会員にだけなって、生態学会には一度も参加したことがなかったが(発表するネタがないのと、開催時期が出張しにくい時期なのと)、この特集はたいへん興味深く、これから生態学会にも参加してみようかと考えるようになった。

さて「アウェイ」の生態学である。ここでいう「アウェイ」とは、主に(私立)文系大学・学部のことだ。生態学を専門とする研究者には、生態学を専門としない学部・学科に所属し、教養科目として、あるいは環境関連の科目として生態学(的内容)を教えている。そのような環境では、生態学者は専門外の研究者、学生に取り囲まれていることになる。その状態を「アウェイ」と表現したわけだ。

特集の執筆陣はいずれもそのような状況下で、さまざまな工夫をしながら、自らの存在意義を示すとともに、学生たちにとって意味のある授業を作っていた。龍谷大学の谷垣さんは、100人超の大人数講義において、野外活動をとりいれ、実習的な授業を行っている。椙山女学園の野崎さんは保育・幼児教育を専攻する学生を対象に宿泊実習を行い、生態学的調査と川遊びプログラムを同時に行って、学生たちに生態学的素養を持たせた上で、保育実践につながる活動を考えさせている。

いずれも、非常に学ぶべきところが多かった。自らを顧みると、まだまだ自分の居場所を作る努力が足りないと感じた。大学キャンパスを使った生き物探しなどは、僕の大学でも十分に可能だ。

特集の執筆陣たちは、「アウェイ」に身を置いて、居心地の悪い思いをしながらも、当該の分野において生態学が貢献しうることを実感し、「アウェイ」と生態学を結びつけるべく努力をしている。そうした動きが、個人の努力にとどまらず、シンポや特集を組むくらいのムーブメントになっていることは素晴らしい。

ひるがえって、我らが「霊長類学」はどうだろうか。僕はまぎれもなく「アウェイ」の霊長類学者だ。先輩や後輩たちにも同じような「アウェイ」の霊長類学者がたくさんいる。その「アウェイ」ぶりは、おそらく生態学の比ではない。霊長類学が一世を風靡していたのははるかな昔のことで、今、霊長類学者のインナーサークルの外で、霊長類学など誰もしらない。それはつまり、霊長類学が社会的意義を失いつつあるということにほかならない。

山極さんや松沢さんのようなベテランの人気霊長類学者がいろんなところでひっぱりだこではないか、という反論があるかもしれない。しかし、彼らは彼ら個人として人気者なのだ。

にもかかわらず、「アウェイ」の霊長類学者たちに連携の動きはみられない。それが非常に残念だ。